愛猫が喉元でゴロゴロと心地よい音を奏でる姿に、思わず癒されたことはありませんか?
あの独特な音色には、実は猫の様々な気持ちや意図が込められています。
「うちの猫はなぜゴロゴロ鳴くんだろう?」という疑問を持つ飼い主さんは多いはず。
この記事では、猫のゴロゴロ音の意味から仕組み、そして人間への影響まで、科学的な視点から分かりやすく解説します。
猫がゴロゴロ鳴く理由とその時の気持ち
愛猫がくつろいでいる時、撫でている時、あるいは突然鳴き始める時に聞こえる「ゴロゴロ」という音。その優しい音色には、実はさまざまな意味が込められています。
猫がゴロゴロ鳴く時、その心の中では一体何が起きているのでしょうか。
幸せな時のゴロゴロ音
猫がゴロゴロと喉を鳴らす最も一般的な理由は、幸せを感じている時です。
飼い主に撫でられている時や、お気に入りの場所でくつろいでいる時に出る音は、満足感の表れです。
この時の猫は目を細め、体をリラックスさせています。
周波数は20~50Hz程度の中低音で、安定した心地よいリズムが特徴です。
猫が「今、とても気持ちいいよ」と伝えているサインなのです。
何かして欲しい時のゴロゴロ音
猫は欲しいものがある時にも、ゴロゴロ音を使います。
「お腹が空いた」「遊んで欲しい」「もっと撫でて」など、飼い主に何かを要求する時のゴロゴロ音は、通常より高い音程(220~520Hz)になります。
興味深いことに、この音は人間の赤ちゃんの泣き声と同じ周波数帯で、飼い主が「何かしてあげなければ」と感じやすいように進化したと考えられています。
猫がゴロゴロ鳴きながらあなたをじっと見つめたり、食器の前で鳴いたりする場合は、何か望みがあるサインです。
不安な時のゴロゴロ音
意外に思われるかもしれませんが、猫は不安やストレスを感じている時にもゴロゴロ音を出します。
動物病院での診察中や、見知らぬ人が家に来た時など、緊張している状況でもゴロゴロと鳴くことがあります。
これは自分自身を落ち着かせるための行動で、リラックス時よりも低く大きい音が特徴です。
猫が毛を逆立てたり、体を固くしていたりする場合に聞こえるゴロゴロ音は、「自分を励ましている」と考えられています。
体調が良くない時のゴロゴロ音
猫は体調が優れない時や痛みを感じている時にも、ゴロゴロ音を出すことがあります。
これは自己治療のための行動と考えられています。
ゴロゴロ音の振動が体内でエンドルフィン(幸せホルモン)の分泌を促し、痛みを和らげる効果があるとされています。
骨折した猫の回復が他の動物より早いのも、このゴロゴロ音のおかげかもしれません。
普段より頻繁にゴロゴロ鳴いていたり、他に元気がない・食欲がないなどの症状が見られる場合は、体調不良のサインかもしれません。
猫のゴロゴロ音はどうやって出るのか
猫のゴロゴロ音は他の動物には見られない特殊な能力です。
この不思議な音が実際にどのように作られているのか、その仕組みを見ていきましょう。
猫の喉で起きていること
猫がゴロゴロ音を出す正確な仕組みは、実はまだ完全には解明されていません。
最も有力な説では、猫の喉頭(のどぼとけの部分)にある筋肉が非常に細かく伸縮し、声帯を振動させることでゴロゴロ音が発生すると考えられています。
最近の研究では、猫の声帯部分に特殊な「パッド状の結合組織」が発見されました。
この組織が空気の流れに反応して振動し、ゴロゴロ音を作り出している可能性が高いようです。
興味深いことに、猫は呼吸の「吸う時」と「吐く時」の両方でゴロゴロ音を出せます。
これは人間を含む他の動物にはない特殊な能力です。
猫のゴロゴロ音の特徴

猫のゴロゴロ音は通常、約25ヘルツという低い周波数で鳴ります。
この周波数は人間の耳で聞くことができる最も低い音に近く、私たちの体に心地よい振動として感じられます。
猫の種類や個体によって、音量や音色、周波数には違いがあります。
一般的に、大きな猫ほど低い周波数のゴロゴロ音を出す傾向があります。
また、猫の気持ちによって音の特徴も変わります。幸せな時は中低音で安定した音、要求する時はやや高めの音、不安な時は低く大きい音になることが多いです。
ライオンやトラがゴロゴロ鳴かない理由
ネコ科の動物は、興味深いことに「ゴロゴロ鳴く動物」と「吠える動物」に分かれています。
家猫を含む小型のネコ科動物はゴロゴロと喉を鳴らすことができますが、ライオンやトラなどの大型ネコ科動物は吠えることはできてもゴロゴロと喉を鳴らすことはできません。
この違いは喉の構造の違いによるものです。
ゴロゴロ鳴く猫は「完全に骨化した舌骨」を持っていますが、ライオンやトラの舌骨は軟骨の部分があり完全には骨化していません。
この舌骨の違いによって、小型のネコ科はゴロゴロ音を出せる代わりに大きな吠え声を出せず、大型のネコ科は吠えることはできてもゴロゴロ音を出せないという興味深い特徴が生まれているのです。
子猫と大人の猫のゴロゴロ音の違い

猫のゴロゴロ音は生涯を通して変化します。
子猫の時と成猫になってからでは、その目的や意味に違いがあります。その変化を詳しく見ていきましょう。
子猫が母猫に向けてゴロゴロ鳴く理由
子猫は生後わずか2日目から、すでにゴロゴロ音を出すことができます。
生まれたばかりの子猫は目が見えず、耳も聞こえない状態ですが、ゴロゴロ音の振動を通して母猫とコミュニケーションを取ることができます。
子猫がゴロゴロ音を出す主な目的は、「ここにいるよ」と母猫に自分の存在を知らせることです。
また、子猫は母猫からお乳をもらう時にもゴロゴロと鳴きます。
この音は母猫を安心させ、お乳の出をよくする効果があると言われています。
子猫にとってゴロゴロ音は単なる可愛らしい行動ではなく、生存に関わる重要なコミュニケーション手段なのです。
大人になってから変わるゴロゴロ音の意味
成猫になると、ゴロゴロ音の使い方はより複雑で多様になります。
子猫時代は主に母猫とのコミュニケーションのために使われていたゴロゴロ音が、成長するにつれて「幸せの表現」「要求の伝達」「自己安心」など、さまざまな目的で使われるようになります。
成猫の「幸せの時のゴロゴロ音」は、子猫時代の「母猫と過ごす幸せな経験」が起源となっていると考えられています。
また成猫は、子猫の頃には必要なかった「何かを要求する時」のゴロゴロ音を発達させます。
これは特に人間と暮らす中で発達した新しいコミュニケーション方法かもしれません。
飼い主と猫のゴロゴロコミュニケーション

多くの猫は飼い主を「代理の母猫」のように認識し、子猫時代と同様のコミュニケーション方法を使います。
飼い主に撫でられた時のゴロゴロ音は、かつて母猫に毛づくろいしてもらった時の心地よさを思い出させるものかもしれません。
猫は飼い主の反応を見て、どのようなゴロゴロ音をどのような状況で使えば効果的かを学習していきます。
例えば、朝の餌をねだる時には特定の「要求のゴロゴロ音」を使うことを覚えます。
飼い主と猫の長い共同生活の中で、両者は独自のゴロゴロ音によるコミュニケーション方法を発達させていきます。
猫の鳴き声と違い、ゴロゴロ音は主に近い距離でのコミュニケーションに使われるため、より親密な関係を表す特別な音と言えるでしょう。
猫のゴロゴロ音が人間に良い影響を与える理由
愛猫がゴロゴロ鳴く姿に癒されるのは、単なる気のせいではありません。
科学的な研究によれば、猫のゴロゴロ音には実際に人間の心身に良い影響を与える効果があるのです。
ゴロゴロ音でリラックスできる仕組み
猫のゴロゴロ音は約25ヘルツという低周波で、この振動には人間の自律神経に働きかける特別な効果があります。
この低周波音は、ストレスや緊張を担当する「交感神経」の働きを抑え、リラックスと回復を促す「副交感神経」を優位にします。
その結果、心拍数の低下、血圧の低下、筋肉の緊張緩和といった効果が現れ、全身の緊張状態が和らぎます。
また、猫のゴロゴロ音を聞くことで「セロトニン」という幸福感をもたらす物質の分泌が促進されます。
セロトニンは精神を安定させ、不安感を軽減する効果があります。
猫のゴロゴロ音が「1/fゆらぎ」という心地よい波形パターンを持っていることも、人間にリラックス効果をもたらす理由の一つです。
ゴロゴロ音に癒やし効果がある可能性
猫のゴロゴロ音には、精神的な癒し効果だけでなく、身体的な治癒効果がある可能性も研究されています。
猫自身が骨折などのケガから他の動物よりも早く回復するという事実があり、これはゴロゴロ音の振動が関係しているかもしれません。
研究によれば、25ヘルツ前後の振動には骨の形成を促進し、強化する効果がある可能性が示唆されています。
実際に、猫のゴロゴロ音の周波数からヒントを得た「超音波骨折治療法」が開発され、骨折治療に応用されているほどです。
猫と触れ合う時間が増
「猫セラピー」の効果について
フランスでは「ゴロゴロセラピー」(フランス語では「ロンロンセラピー」)として、猫のゴロゴロ音を利用した治療法が実践されています。
このセラピーは不安を和らげ、ストレスを軽減し、血圧を下げる効果があるとされ、「副作用のない自然の薬」とまで言われています。
日本でも高齢者施設や医療現場において「セラピーキャット」の活動が広がっており、患者のストレス軽減やリハビリ意欲の向上などに効果を上げています。
猫と過ごす時間が「癒される」と感じるのは、単なる主観的な印象ではなく、科学的な根拠に基づいた現象だったのです。
私たちが猫のゴロゴロ音に心地よさを感じるのは、人間と猫の長い共生の歴史の中で育まれた特別な絆の証かもしれません。
まとめ
猫のゴロゴロ音は、単なる可愛らしい鳴き声ではなく、複雑な意味を持つコミュニケーション手段です。
幸せやリラックス、要求や不安、時には体調不良を表すこともある猫のゴロゴロ音は、状況や音の特徴によって意味が変わります。
猫の喉にある特殊な組織と筋肉の動きによって生み出されるこの音は、小型のネコ科動物だけが持つ特別な能力です。
子猫から成猫へと成長する過程で、ゴロゴロ音の使い方や意味は変化し、特に飼い主との間で独自のコミュニケーション方法として発達します。
猫のゴロゴロ音には人間の自律神経を整え、リラックス効果をもたらす特性があり、現代のストレス社会において天然の癒し効果をもたらしてくれます。